*当記事は前回コラム “エラのボトックス注射(1):その背景と治療の効果” の続きです。
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前回解説しましたように咬筋へのボトックス注射は段階的に以下の3つの効果を発揮します。
- 咬筋(エラの筋肉)の収縮を抑え(ボツリヌストキシン投与数日後〜)
- 「えら」のボリュームの主体となる咬筋を萎縮させ(投与後数ヶ月かけて)
- 適切な投与間隔で反復することにより輪郭を小さく見せて顔全体のバランスを改善します(小顔効果)
とはいえ、治療を受けられる前には不安や心配も多いかと思います。
- 「顔が動かなくなったりしないかな?」
- 「表情がおかしくならない?」
- 「逆にほほがこけたりしないかな?」
- …etc
今回はボトックス治療を受ける前に知っておきたい副作用や失敗の可能性について考えていきます。
技術的な失敗の原因は大きく次の3つが挙げられます>>
1)投与すべき筋肉(咬筋)に注入できていない
注射する際に針先が咬筋の中にきちんと入っていないと薬剤が咬筋の外に作用します。
具体的には咬筋の上には耳下腺がありますが、この耳下腺を覆う耳下腺筋膜から口角にかけて走る笑筋にボツリヌストキシンが作用してしまうと表情がアンバランスになってしまいます。
また極めてまれなことですが薬剤が咬筋外にさらに拡散し笑筋だけでなく、小頬骨筋・大頬骨筋といった主要な表情筋が麻痺してしまうと、一時的にその部分の顔が動かなくなったような表情になる可能性があります。
ただし、これらの副作用は薬剤をきちんと咬筋の筋体内に投与できていれば起こりません。
針先が咬筋の中にきちんと入っているかどうかは、(私の経験上)針先が咬筋の筋膜をつらぬく際に指先に伝わる感触と針先の動きでしっかり確認することができます。
2)咬筋の中での投与部位の誤り
きちんと咬筋の筋体内に投与できていても、投与部位が適切でないと小顔になるための効果を発揮しないばかりか頬がこけてしまった顔つきになったりします。
具体的には咬筋を次の3部位に分割して、一人一人の方のそれぞれの部位の発達具合に応じて適切な投与量を考える必要があります。
- 咬筋上1/3:ここが萎縮(やせ)しすぎるといわゆる「頬のこけた」顔つきになります。
- 咬筋中央1/3:咬筋の力こぶ(奥歯を噛み締めた時の盛り上がり)の上半分
- 咬筋下1/3:咬筋の力こぶの下半分
個々の方の症状や筋肉のつき具合によっても異なりますが、私の経験上では多くのケースにおいて治療の優先順位(及び薬剤の分配)は下方1/3→中央1/3→上方1/3となります。ここが適切に投与できていないと頬がこけたり、逆にエラが目立ったりします。
3)投与量の誤り
投与量が少なすぎれば効果が出ないことはもちろんですが、逆に多すぎても問題が生じることがあります。
具体的には、ボツリヌストキシンの投与により数ヶ月かけて筋肉のボリュームが減っていくわけですが、その過程で風船の中の空気を少しづつ抜いていくのと同じことが起こります。
すなわち、風船のゴムが新しいうちは中の空気が少し減っても風船の表面はきれいなままですが、風船のゴムが痛んでくると空気を抜きすぎると風船の表面はシワシワになってしまいます。
20代から顔の表面を被覆する皮膚(envelope)の弾力性が徐々に低下していくため、特に30代以降の方に投与するときは一人一人の皮膚の弾力性に応じて緻密に投与量を決めていく必要があります。
今回のまとめです>>
エラのボトックス注射では
1)適切な筋肉の
2)部位ごとに優先順位をつけて
3)一人一人の状態(特に部位ごとの筋肉肥大の程度と皮膚の弾力性)に応じて投与量を緻密に計算すること
、が大切なポイントとなります。
以上、形成外科専門医・耳鼻咽喉科頭頸部外科専門医としてのキャリアに基づいた現時点での私の見解です。
エラボトックス注射をお考えの方々のご参考になれば幸いです。
*ボトックス(BOTOX®)は、最も代表的なA型ボツリヌストキシンであるアラガン社のボツリヌストキシン製剤の商品名です。
四条烏丸松ケ崎クリニック 院長(形成外科学会専門医)
西村 雄
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