加齢・エイジングとともにあらわれるシワやタルミは多くの方にとって悩ましいものです。
一般には、 30代前後からほうれい線や眉間の縦しわ・おでこの横しわが目立ち始め、さらに40代前後からはまぶたのたるみや頬のたるみ・マリオネットラインが目立ち始めます。 これらの老化に伴う、しわ・たるみには以下の3つの大きな原因があります。
エイジングの3大要因>>
- 肌(皮膚)の弾力性の低下と脱水
- 表情筋の緊張による皮膚へのストレス
- 軟部組織(脂肪)が徐々にやせて(萎縮)しぼんでいくこと(ボリュームロス)
これをエイジングの経過にそって具体的に見ていくと>>
- 0才〜20才前後まで: 肌の水分・弾力性とも十分にあるため、もちろん表情を作った時にはシワはよりますが、普通の表情の時(安静時)にはシワはありません。また軟部組織(脂肪)のボリュームも一番しっかりしている時期なのでタルミもありません。
- 20代〜30代: 肌に少しづつエイジングと光老化に伴う変化が現れ始めます。特に10代〜20代の頃によく日焼けしていた方はそれまでに蓄積された紫外線のダメージにより肌のエイジングのサインが(光老化がその80%と言われています)早く現れます。肌の水分・弾力性が低下し始め、徐々に安静時にもうっすらと法令線や目尻のシワが目立ち始めます。また20代後半頃から軟部組織(脂肪)のボリュームが徐々にやせていくためタルミに伴う法令線やマリオネットラインが少しあらわれ始めます。
- 40代〜50代: 肌の水分・弾力性(ハリ)ともにはっきりと低下し、肌全体に小じわが目立ちやすくなります。また脂肪が萎縮傾向となり、軟部組織とそれを支える靭帯・コンパートメントというお顔の深部構造がくずれていくためタルミがはっきりと現れます。頬ではチークの頂点が下方に下がり、下垂した組織が法令線とマリオネットラインをさらに深くしてしまいます。
- 60代〜:お顔の表面となる肌の脱水・弾力性の低下に加えて、深部のボリュームロスも進行していくため新鮮な果物が時間が経つとドライフルーツになっていくようにたるみ感とともにしぼみ感も伴ってきます。軟部組織が萎縮して(しぼんで)いくことにより硬組織(骨格)のレリーフが目立ち始め、徐々に骨の輪郭が浮き出てきます。
しわ・たるみの予防)
次に先ほどのエイジングの3つの原因に対する予防方法を考えていきます。
1)肌の水分・弾力性の低下予防
肌の(もちろん体全体も)DNAダメージをさけて適切なスキンケアをすることが重要となります。日常的に心がけたいことは
- 過剰な紫外線を予防すること:UVケアが将来の光老化の進行を左右します。
- 紫外線やその他の様々な要因によるDNAダメージの修復をサポートすること:抗酸化作用の高いビタミンC+Eやベータカロチン、その補酵素として働くビタミン群を含むバランスの良い食事を。不足しがちなビタミンはサプリメントで補うのも良い。
- 肌のスキンバリアへのダメージをさけること:ほとんどの女性のお肌は毎日のお化粧とそれを落とすための強めの洗浄(クレンジング)の繰り返しにより慢性的なスキンバリアダメージを受けています。可能な範囲で過剰なメイクをさけて、洗顔料はできるだけマイルドなものを(できれば夜だけ)使用するように心がけるとそれだけで肌のコンディションが良くなっていくことも少なくありません。
2)表情筋の過剰な緊張によるしわストレスの予防
- いつもイライラしたり怒りがちだと皺眉筋(眉をひそめる筋肉)の緊張が高まり眉間に縦皺が出てしまいます。怒りをコントロールしてリラックスを心がけましょう。
- いつも不満や不安にさいなまれていると口角下制筋とオトガイ筋の緊張が高まり不安(不満)そうな表情に見えてしまいます。できるだけ笑顔で口角を上げていきましょう。
- 加齢により生じる眼瞼下垂に伴い、機能の低下したまぶたを上げる筋肉(眼瞼挙筋)の働きを代償するために前頭筋の緊張が高まりおでこに過剰にしわが寄っていることがあります。まぶたの重さを自覚されているようであれば形成外科や眼科で相談されることをお勧めします。(加齢に伴う眼瞼下垂のほとんどは手術することによりきれいに治ります)
- 目尻の笑い皺は少しあるぐらいが、私としては自然で好きです。(しわを気にして大笑いしないようにしましょうというのも不自然なので)しわが目立ってきたら後で説明する治療を検討しても良いでしょう。
3)ボリュームロス(軟部組織の萎縮)の予防
- 日焼け予防:深部まで到達するUVAは深部組織の萎縮・編成を助長する可能性があります。南国のビーチだけではなく日頃からしっかり日焼け止めを塗りましょう。
- 過度なダイエットはボリュームロスを助長します。特に40代以降は痩せすぎないようにしましょう。
- ただし太れば解決するかというと下垂した脂肪も下垂した場所でボリュームアップするため、太り過ぎもよくありません。
しわ・たるみの治療方法)
先ほどの予防方法をしていても出てくるシワ・タルミには美容医療の力でなんとかなるものもあります。
エイジングの要因別に治療方法を見ていきましょう。
1)肌の弾力性・水分低下に対する治療
年齢やお肌のコンディションにより以下の治療を行います。状態によっては幾つかの治療方法を複合的に用いることもあります。
- トレチノイン(レチノール)に代表されるビタミンAの外用薬を使用したスキンケア:ビタミンAの皮膚への薬理作用により皮膚のターンオーバーを促進し、内側から肌の質感を回復する働きがあります。
- RF等の美容皮膚機器による治療:RF(高周波)等のエネルギーを真皮に加えることによりゆるんでしまった組織の引き締めと、コラーゲン産生を刺激する作用が期待されます。
- ヒアルロン酸注入治療:皮膚にヒアルロン酸製剤を注射することにより、極めて高い水分保持力を持つヒアルロン酸を直接皮膚内部に補充します。
- ピーリングやその他の治療:他にも様々な治療方法があります。
2)表情筋の過剰な緊張によるシワの治療
- A型ボツリヌストキシン治療(ボトックス注射):現在このタイプのシワ治療のゴールデンスタンダードと考えられています。ボツリヌストキシンとして歴史と実績のあるアラガン社の薬剤の商品名”ボトックス”が治療の代名詞となっています。ボトックスは筋肉を破壊することなく一定期間(3−4ヶ月前後)筋肉の収縮を抑制します。表情筋の治療においては完全に筋肉を止める(弛緩させる)のではなく、適切な投与量の薬剤を繊細なテクニックで投与することにより、顔の表情をつかさどる20以上の筋肉の緊張(トーヌス)のバランスをとり調和させることが、自然で魅力的な表情を得るために最も大事なことと私は考えています。
- 手術:フェイスリフト手術等の際にシワの原因となる皺眉筋や眼輪筋・前頭筋を(一部)切除するDrもいます。
3)ボリュームロス(軟部組織の萎縮)の治療
フィラーによる治療が主体となります。(ボリュームの補充のために注入される薬剤・材料の事をフィラー(組織充填材)と呼びます)フィラー治療には主に以下のものがあります。
- 脂肪注入:腹部や大腿部などから採取した自分の脂肪を注入します。自分の組織であるため安全性が高いと考えられています。注入した脂肪の生着にある程度の幅があるため仕上がりのコントロールにもある程度の幅があります。
- ヒアルロン酸注入:現在ボリュームロスの治療として最もメジャーな方法です。ヒアルロン酸自体は体内にも存在する成分で安全性は高いと考えられていますが、まれにアレルギー等の副作用が生じることもあります。そういった万が一のトラブルの際にも、ヒアルロニダーゼという分解酵素製剤により溶解しレスキューすることができるためリスクマネージメントの面でも優れたフィラーと考えられています。持続期間は製剤のタイプにより異なりますが一般的なレンジの製剤では6−12か月前後と言われています。(ただし実際の持続期間はケースにより大きく異なり、様々な条件により1年以上経ってもしっかり持続しているケースも少なくありません。)
- カルシウムハイドロキシアパタイト:一般には”レディエッセ”という名前でよく知られています。弾力性や可塑性等に特徴がありますが、トラブル時の対応が難しいためDrにより好みが分かれる製剤です。(私は使っていません)
- その他にも様々な材質のフィラーがありますが、それぞれの医師が自らの考えと理念を元に個人の裁量で使用しているのが多くの現状です。ただし、ヒアルロン酸製剤については近年アラガン社のJuvederm Ultra,Ultra Plus, ガルデルマ社のRestylane,Perlane等の日本の厚生労働省の認可製剤が出てきました。
以上、形成外科ならびに美容外科医としての私の知識と臨床経験からの現在の考察と見解となります。 シワ・タルミに悩まれておられる方々の参考となれば幸いです。
2016年9月05日 ”Clinic for your Smile”
四条烏丸松ヶ崎クリニック 院長(形成外科学会専門医) 西村 雄